2016年10月28日金曜日

vol.007 #白い街

~よくみながするセカイケイ物語を吾もしてみんとおもふ~



昭和五十五年三月、金沢から一人用こたつ机と荷物を詰め込んだ大きなかばんを抱えた彼は名古屋駅ホームに降り立った。
つい数時間前には、生暖かい雫と、唇にあたる湿度いっぱいの金沢駅のプラットホームが、太平洋側の乾いた空気に満たされた白い名古屋駅のプラットフォームに変わっていた。

「名古屋は白い」


土地に対する知見のない彼の名古屋の印象は、色のない「白」だった。
その日の数ヶ月前、冬曇りの中、職場の見学と、会社が用意してくれた勝川のアパートの下見をかねて、初めて名古屋に来たときの印象だ。
愛知、名古屋についても、仕事である「瀬戸ノベルティ」についての知見も興味もほとんどなく、まったくの白紙だった。
それは強く希求した地でも仕事でもなかったのだが、それだからこそ何度でも振り出しに戻って、どこへも行けない旅の、何度目かの始まりに自分を投げ入れるのにはうってつけの場所だと思えたのだ。ぬくぬくした生活感豊かな土地よりも、己を知る人のいない、殺風景なほどの街で、振り出しに戻る。
しかし本当にそんなことができるのか?ゼロにして振り出しに戻るなんて。。

「何もない、白い街」


多治見行き中央線に乗り換え、名古屋駅を発車して少したつと左側の車窓から、一瞬見えた塔に

「何もないことはない」

つぶやいた。


そうか、ここが名古屋の玄関。



森石油さん所蔵の写真を撮影画像処理

その後何度も東京からの新幹線、一瞬見えるライトアップの門がいつも迎えてくれた。